上社本宮は「そっぽを向いている」わけではない(諏訪大社上社本宮を再訪)

2022/06/15

今回は、諏訪大社の上社本宮を再訪しました。

 

上社本宮は近所なので何度も訪問しています。甲信寺社宝鑑では3年ほど前に解説記事を書きましたが、開設当初のものだったため内容があまりにも稚拙で、そのうち再訪して書きなおしたいと思っていました。

御柱際(5月上旬にあった)のほとぼりも冷めてきた頃ですし、この日は雨降りで観光客も少なそうなので、非番の日を利用して平日朝に行ってみました。

 

正門(北側の鳥居)

こちらは北側の鳥居

境内の出入口はいくつかありますが、こちらが正門(表参道)となっています。

 

雨降りの平日の朝(09:00頃)でしたが駐車場は何台か先客がいて、境内も数人ほど観光客の人影がありました。行楽シーズンはそこそこ混む観光地なので、人が少ないと快適です。

 

境内の南東にある、入口御門と布橋。

非常に長い廊下で、当社でもとくに印象に残る社殿かと思います。

昨年秋(2021年10月)に来たときは工事中でしたが、ことし5月の御柱際にあわせて完成させたようです。以前の屋根は銅板葺だったかと思いますが、現在はこけら葺にグレードアップしています。

ただし、今回は布橋に隣接する社殿を工事していて、結局布橋は通行できませんでした。

 

よって、正門(北側の鳥居)を直進して拝所へ直行する、ちょっと味気ないルートで参拝することになりました。

このルートだと、正門から行って帰ってくるまで5分もかかりません

 

社殿の向きと、当初の表参道

拝殿周辺の様子は、ふだんと変わりありませんでした。

 

拝殿などの主要な社殿は北西向きですが、北にある正門は北東向きで、正門から見ると拝殿は90度横を向いた配置になっています。

そのため、「上社本宮の神はそっぽを向いているので、根気強く願わないと叶えてくれない」という噂がささやかれています。この噂は近現代になって吹聴された俗説で、史料を見ればはっきりと否定できます。

 

(国幣中社信濃国諏訪上社図 信州デジタルコモンズより引用)

こちらは明治時代(1884年)に画かれた絵図

中央の中庭の左端に、右を向いて描かれているのが拝殿です。

 

絵図の右(北東方向)には“一鳥居”と書かれ、一鳥居から拝殿前の中庭までほぼまっすぐに参道が伸びています。これが当初の表参道です。

また、一鳥居の右の枠外には「五の鳥居まで1丁」(1丁は約190メートル)と付記されていて、枠外のこの方向にも鳥居がいくつかあったようです。

 

上社本宮が横を向いているように見えるのは、北側に駐車場や商業施設ができたことで実用上の正門(表参道)がかわり、われわれが横から参拝するようになったせいです。上社本宮は決して「そっぽを向いている」わけではないのです。

では、上社本宮が実はすんなりと願いを叶えてくれる素直な神なのかと言われれば、そうとは限らないわけですが・・・

 

社務所の横を通って境内西端の出入口へ向かうと、人気のない場所に北西向き(拝殿と同じ向き)の鳥居があります。

浪除鳥居(なみよけとりい)という名前がついていて、当初の表参道のなごりと思われます。なお、この鳥居は戦前に再建されたもの。

往時の諏訪湖はこの付近まで水をたたえていて、上社本宮は湖水に面していたらしいです。波除鳥居とは言いますが、増水すると境内も水浸しになったようです。

 

以上、諏訪大社上社本宮でした。